2008.10.1

ラグビーW杯2003奮闘記(17)

「ラグビーワールドカップ奮闘記」
~ひたむきにひとつひとつ心をこめて~
元ラグビー日本代表テクニカルスタッフ 村田祐造

『エピローグ』

    連載 第17回!

     ●ラグビー好き・・・村田祐造

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日本代表や三洋電機の選手達と呑みに行ったり、
飯を食ったり、お茶をしているときに、
私は、よく東大ラグビー部のことを訊かれる。

試合をしたことのある選手は

「いやー東大と試合するのは嫌だったなー。
負ける気はしないんだけどね。
でもタックル低いし必死なんだもん。
怪我するよ。こっちは」

とみんな顔をしかめる。

すると私は

「まあねー。東大の魂はタックルとセービングだよ。
ひたむきさと泥臭さ」

と答えることにしている。

そして次のような東大の数々の伝説を紹介する。

「対面殺して俺も死ぬ!」吉岡先輩
「負けて泣くなら勝って死ね」青山先輩
「お前ら試合前に俺に遺書出せ」水上コーチ

「東大のプレースキッカーは個人で
毎回夜遅くまで練習していた。

しかもボールを拾い集めるときは、
タックルの姿勢で膝を曲げて低く腰を落として

一歩一歩前進しながらインゴールまで行くんだぜ。
他に誰もいないグラウンドで一人ぼっちでだよ」

佐分利先輩
「いいかFW。『頑張る』っていうのはよー、
最初の10mダッシュして最後の10mも
ダッシュするっていうことなんだよ。

ポイントからポイントの移動はそういう気持ちで走るんだよ。
それが、FWが『頑張る』ってことなんだよ。

BKが最後トライしたときには
FW全員が塊でインゴールになだれ込むぐらい
『頑張って』走ってみろ!」

(この後選手を蹴飛ばす)

橋本コーチ
「東大のFWはコンビの最中によくインゴールでゲロを吐く」
「試合中はスクラムクラウチのときに、
プロップとフッカーがよくカラゲロを吐いている」

みんなゲラゲラ笑う。私も上機嫌になる。

東大ラグビー部の思い出は尽きない。
誰もがひたむきにラグビーに取り組んでいたからだろう。

ワールドカップの日本代表。
対抗戦の東大ラグビー部。
相似図形の窓から見えたもの。

「ひたむきに。ひとつひとつ心をこめて。タックルとセービング」

私は、「自分がなぜラグビーが好きなのか。
なぜラグビーをやっているのか」

自分のラグビー哲学がわかった気がした。
日本ラグビーが世界で生きる道が見えた気がした。

ラグビー日本代表チームのテクニカルとしての私の任務は終わった。

タックルとセービング。セットプレイの確保。合理的な戦術。
これらが周到に準備できれ日本代表は世界に通用することが分かった。

二〇〇三年のワールドカップが終わり、
私は、所属する三洋電機ラグビー部の一ラグビー選手に戻った。

代表ではスタッフだけど、
三洋では選手なので私はワールドカップ期間中も、

分析の仕事がおわった深夜一時から
ホテルのトレーニングルームでウェイトトレーニングしたり、

だれもいない駐車場をインターバルトレーニングしたりして、
無理やりトレーニングを続けていた。

今から思うとバカみたいだけど私なりに努力していたのだ。

ワールドカップという最高の舞台を選手ではなく
スタッフとして経験できたことはすばらしい経験だった。

その経験を胸に一ラグビー選手に戻り、
三洋電機ワイルドナイツのグランドで
自分自身の向上を求めて楕円球を追い駆けるということは、
とても快感でとても貴重だった。

2003年12月27日、NECのBチームと練習試合があった。
次のサントリー戦に向けてのセレクションマッチだ。
試合前後にNEC所属の日本代表関係の仲間に声を掛けられた。

試合前。

久富
祐造さん!今日スタメンじゃないですか!
メンバー表見て驚きましたよ。熱いプレーを見せてくださいよ。

試合後。

浅野
楽しみにしてたんすよ。今日。
祐造さんのプレイ見れると思って。

網野
頑張ってたねー祐造。三洋いいチームじゃん。

箕内
泥にまみれて仕事しすぎっすよ。祐造さん。
どこにいるかわかりませんでしたよ。

秋廣
いやあー。ウチのロックの膝に思いっきり刺さってたもんね。
相手フィジアンだよ。外国人。
ガツーンと!あれ、壊されたかと思ったもん。
いたくないの?

中島
祐造の課題はアタックだなー。
もっと中間走は力を抜いてメリハリつけようよ。
もっとフランカーはチャンスを狙わなきゃ。
でも確かにディフェンスはいいね。目立っていたよ。


祐造さんも熱いっすね!

対戦相手にも友達がたくさんいるのは、嬉しいことだ。
自分のラグビーにまだ伸びシロがあるのも嬉しい。
もっとうまくなりたい。もっとうまくなれる。

タックル。

ボールが落ちたらセービング。

ひたむきに。

ひとつひとつ心をこめて。

ラグビーがすきだ。

(了)

次回 最終回へ続く・・・